朝日君の反省
物心ついたときから朝日新聞だった。
同じように、物心ついたときから親父はジャイアンツファン。それで私も、何の疑いもなくジャイアンツファンになった。
ある日、ジャイアンツとは、ジャイアンツという独立した野球チームではなく、読売新聞の所有するチームだという絡繰りを理解し、それではどうして親父は読売新聞ではなく朝日新聞を読むのかと疑問に思い聞いてみた。
「読売は嫌いだ」というにべもない返事だった。なるほど、嫌いな奴の持ち物であっても、好きなこともあるのだ。そして、好きだから選ぶとも限らない、そうも思った。親父はよく朝日はダメだと言っていたから。
親父は死んだが実家では相変わらず朝日新聞を購読している。別にどこの新聞でもよいのだろう。しかし、昔から続いていることはそう簡単に変えられないのだ。不満があっても妻や夫を変えるのが面倒で変えないのと同じだ。
そんなわけで、ここ数年、実家に居候している私は、毎朝、朝日新聞をパラパラと読むわけだが、「まあ、朝日新聞だな」という感想を大体同じように持つ。ちょっと偉そうだが、そう思うのだから仕方がない。いや、朝日はやはり朝日であるというのはほめ言葉かもしれない。
ただ、ここ何年か、ちょっと鼻についていることがある。問題教師を容赦なく吊し上げたり、理不尽な校則には敢然とNOを突きつけたりする不良少年の朝日君らしくないと言うか。だって朝日君もついこの間まで吸っていたよね?
はい、タバコの話です。
またかよ!
もう止めろ、その話は!
日向さん、タバコ吸わなきゃステキなのに...。
おえ、タバコって字を見るだけで吐きそう。
吸っても吐くな!
このハゲ!
はは、そんな愛に溢れた声が聞こえてくるわけでありますが、朝日新聞は一貫して喫煙を恐ろしく断定的に悪だとしているわけです。まあ、議論がない、独裁だ、ジャパンは民主主義なんだぞと、現政権を激しく批判する不良少年朝日君が、どうして喫煙については問答無用で悪とするのか。これは朝日君と長い付き合いの私としては大変アンフェアな感じがするわけであります。もしかすると朝日君は禁煙中で、それでちょっとイライラしているのかもしれない。(論調からすると社屋には喫煙所すらないのでしょう。愛煙家の社員さん、お気の毒です...)
まあ、そんな具合にですね、最近少し様子のおかしくなっていた朝日君に、なんと、今朝(20201010朝刊)助言をしてあげたお医者さんが現れたのです。15面オピニオンの、
「健康になれ」人生も社会も窮屈にさせる
という記事です。
大脇幸志郎さん。
朝日君、初め、少しケンカ腰になってますが、大脇さん、どこ吹く風と淡々と語られている。そして朝日君も次第にひきつけられていく。最後には、「タバコについてはゼロ寛容だったが、その考え方が危ういのだと反省した」って言っている。偉いぞ、朝日君!
いや、それにしても立派な先生だ。記事の中では触れていないけど、この先生、タバコ吸わない人だったらさらに驚きだ。でも、多分、というかここまで言えるのは吸ってる証拠。間違いない。喫煙の良さを体験的に知らなければ医者がここまでなかなか言えるものではない。こういうドクター、近所にいたら頼りになるのになぁ。クスリとか出さずに「クスリと」させて、病気とか治してくれそう。
なにしろ、大脇さんの最後の一言が全て。哲学者の池田晶子さんも同じことを言っている。
「人は健康のために生きるのではなく、生きるために健康であるべきなのです」
痺れますね。
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