カメの話


我が家には十年前からカメがいる

もともと二匹いたのだが
一匹はあらしの夜に脱走して
それっきり帰って来ない

つまり、逃げられなかった奴が
一匹いるわけだ


カメって生き物は
居るんだか居ないんだか
生きているんだか死んでいるんだか
可愛いんだか可愛くないんだか
よくわからない生き物で、
十年一緒にいても
特に愛着が生まれるわけでもなく
でも、今、こいつが居なくなったら
ちょっと奥歯の抜けたような
そんな心もとなさと言うか
寂しさというか
軽い欠落感に苦しみそうな
いやいや、別にそんなことなくって
まあ、いなくても
ホント、何も変わらないなって
そんな感じに
すぐに忘れてしまいそうな
とにかく
どこに
どう位置付けすればいいのか
相変わらず
よくわからない
存在だ


ミヒャエルエンデは、
カメを襲う動物はいないと言っている

まあ、甲羅の柔らかい子カメは
蛇とか鳥とかいろいろ捕食者はいるけれど

大人になったら
なるほど、
こんなもん食おうとは思わないな


まあ、そんなカメと
十年間一緒に寝食を共にしてきて
その間、いろいろな客人があったけど
ほとんど誰もこいつに関心を向けることはなかった


ところが、数日前からわけあって
実家から母親が我が家に寝泊まりしているのだが、
あろうことかそのカメに
異常な関心を示している

話しかけて
笑ったりしているのだ

俺が餌をやろうとすると
駆け寄ってきて
カメが餌を食うたびに
手を叩いて喜ぶのだ

向かい合って話しこんでいる姿は
さながらカメの親子である

愛くるしい犬や猫がすりよってきても
そっと離れるか
場合によっては軽く蹴とばしていたあの母親が
まさかカメにこれほどの興味を持つとは
まったく思いがけないことだった

そこで、
そんなに好きなら自分のカメを持てばいいと思い、
ちょうど昨日が母親の誕生日だったので
小さなクサガメをプレゼントした

なんだかんだ文句を言いながらも
案外うれしそうだった

名前は親父に
決めてもらうそうだ



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