本多新也の悲哀

ツツガムシのメンバーの
そもそもの接点は、
俳優座という劇団だ

俺と本多新也が同期で、
一期下に田中壮太郎がいた。

壮太郎のことは、またそのうち書くとして
今日は少し本多のことを思い出したい


会った瞬間から
神戸発、東京経由、特急ハリウッド行き
そんな勢いを感じさせる男だった。

誰の前に出ても自然体で
初対面の相手の前だろうと
劇団の先輩俳優の前だろうと
ところ構わず放屁して
表情一つ変えない

俺が屁をしたことに驚く前に、
俺がお前の目の前に立っていることに驚け
とでも言いたげな不遜な顔つき

まかり間違えて
臭い屁だぜ、とでも言おうものなら
猛烈に怒って稽古場を飛び出してしまう。

しかし、しばらくすれば
すっかりご機嫌になって戻ってくる
桜がきれいだったとか
そんな理由で

おい、お前、滅茶苦茶なことを書くな!
という彼の声が聞こえてきそうだが、
もう少し続けよう。


彼には神戸から一緒に上京してきた
ガールフレンドがいた

劇団入団直後のことだった。

わしの彼女がそこまで来てんねん
ちょっと顔貸してや

そう言って、
俺をはじめとする
同期の男共を引き連れて、
待ち合わせ場所の喫茶店に向かった

同じように俳優を目指して上京したというので、
まあ、何かのっぴきのならない事情があって
親元を離れて、上京せざるを得なかった、
ちょっと幸薄い感じの女を想像していた

何も、こんな風にお披露目することもないのに。
こいつなりに、何とか東京に溶け込もうと
努力しているんだろうな……

俺は少しひりひりするような気持ちになって
せめて、「へえ、いい子じゃないか」
くらいの事は
いい子じゃなくても
言ってやらなきゃと思っていた

ここや。

そういって本多は
今は亡き六本木アマンドの扉を
勢いよく開けた

と、その瞬間
誰かが俺たちに向って
カメラのフラッシュをたいた

何だろうと思って、
俺たちは店の中に入った

そして思わず、
あっと声をあげそうになった
アイドル級の美女が座っていたのだ
そしてそれが、
本多の彼女だった。

カメラのフラッシュだと思ったのは
その彼女があまりに美しかったので
フラッシュをたかれたように
まぶしかったのだ

わしの彼女や。

度肝を抜かれた俺たちの顔を
本多は勝ち誇ったように眺めてそう言った


あの時の本多の顔は
今でも忘れることができない。

しかし、
おごれる平家は久しからず……
その後、間もなく彼はその彼女に逃げられてしまう

彼の演技に
やや濃いめの悲哀が
いい感じに滲み出すようになったのは
それからのことだ

まことに俳優というのは
続ければ続けるだけ
良くなっていくものだと
思わないわけには
いかない





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